県議会の海外視察は,各会派それぞれの問題意識により提案された視察先と内容を検討委員会でいくつかに絞込み,その内容を全議員に示し,参加希望者が一定数に達したときに実施される方法がとられている.
今回のヨーロッパ,特にドイツのフライブルク市を中心とする環境施策調査は,私の提案も入っており,希望していたものである.それに加え,スイスの核シェルターや観光施策,イタリアのアグリツーリズモの取り組み調査についても,2011年3月11日を機にこれからの日本や各地域,特に地方都市や農村地域によって成り立つ石川県の今後を考えていく上で重要なテーマであったため,即参加を決めた.幸い希望者も揃い実施に移された.
いずれの視察地も,広い視野と長期的な展望の上に立った計画と施策の実施を市民と行政が一体となって進めている姿を見ることができた.そして,ヨーロッパの重厚な民主主義の歴史に支えられていることも実感した.以下,各視察地での調査内容と所感である.
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ドイツ フライブルク市
■エネルギー・エージェンシー・レギオ・フライブルク
ドイツ南部を縦断するシュヴァルツヴァルト(黒い森)の南端に位置するフライブルク市は,30年ほど前は原発建設計画があり反対運動が激しかった地であると聞いた.そして,この計画がなくなった時から持続可能な街づくりが進められてきた.
最初の視察地,エネルギー・エージェンシー・レギオ・フライブルクで,我が視察団の石坂団長は,日本は原発事故によってエネルギー政策の見直しが求められている,フライブルク市の政策を参考にしたいと挨拶したが,所長のトマス・バウアー氏は,この地では原発はもう過去のものであるが,20km先のフランスの原発が心配である,国家間の問題で困難はあるが,地域をあげての脱原発運動を強化していると答えた.
さて,このエージェンシーは市や企業の出資により1999年に発足した独立採算の公営企業であるが,発足以来1,500にも上る環境プロジェクトをコーディネートしている.行政,企業,大学,市民を組織化し,施設の省エネ化,再生可能エネルギー導入,環境教育・啓発事業など多種多様なとりくみを進めてきた.目標は100%ローカルエネルギーである.カオスから組織的変化へという所長の言葉は,政策とともに市民・企業活動を結びつけることの重要性を示している.もちろんドイツの再生エネルギー法がひとつのステージを確立し,環境経済が進んだことも強調していた.このようなエージェンシーがドイツには25存在し,本エージェンシーは100万人の人口圏を担当しているとのことだった.同様なとりくみがドイツ全体で行われているということであった.
この国の環境施策と国民の意識に支えられ,再生可能エネルギーの比率が順調に上昇しているのは,このような広く厚みのある活動が根底にあるからである.
ようやく成立した日本での再生エネルギー法の施行は2012年7月である.これに連動した国と自治体,
そして,企業や市民のとりくみにとって,ドイツの事例は大いに参考になるものである.石川県においても,来年度エネルギー政策室(仮称)が開設されるが,日本における先進地になるよう議会としてもとりくんでいくよう努力したい.
■ヴォーバン団地

エコロジー配慮型としてフライブルク市が開発した,面積が約40haの住宅団地である.美しい街並み,車を極力排除した道路,省エネルギーが特徴
で,厳しいエネルギー制限も契約に盛り込まれている.
各家の玄関前の植栽は決して画一的ではない.これは,道路端約1mの市の土地をその家に貸与し,自由に植物を植えることができる仕組みになっているからである.また,家の色や造りの規制は緩く,揃っているのは建物の前面の位置ぐらいのように見えた.景観としては,無秩序ではないが,自由で楽しい雰囲気をつくりだしている.これが,この街づくりのセンスを示しているようだった.
自家用車も,完全に認めないというのではなく,持たない家族,離れた共同駐車場を利用する家庭,カーシェアリングを利用する家族と,そのいずれも認められている.しかし,この街を縦横に走る公共交通としての路面電車(LRT,BRT)によって,市民の足は確保されているので,車に頼らなければならない理由はない.自然に自家用車の使用が抑制されているのである.
■シュリアベルク プラスエネルギーハウス団地
更に徹底した省エネルギー(というより,エネルギー0あるいは+)団地がここである.建物の構造も十分な断熱,2重窓,熱を逃さない換気装置等が備えられ,日中の採光を確保したり,夏は山からの冷気を利用したりして,なんと,冬は外気が−15℃でも暖房が必要ない,夏は冷房がいらないという建物となっている.
そして,各世帯には太陽光発電のパネルが設置され,発電,売電されている.結果としての,パッシブハウス,ゼロエネルギーハウスを超えた「プラスエネルギー」の考え方で設計されたものである.
設計する企業と技術者,理念を共有し,ここに住もうとする市民,これを支える法制度,自治体の支援,これらがあいまってこのような街角が出現するのである.
■ソーラー・プロジェクト フラウンホーファー研究所,SCフライブルク・スタジアム
環境関連の研究施設や企業もこの市には多く立地されている.太陽光発電の効率向上の技術開発や,需要と供給管理の

マネジメント,普及のための研究をおこなっているのが,フランフォーファー研究所である.再生可能エネルギーの研究,導入,普及拡大によって新たなビジネス,経済のしくみが生まれてきている.
サッカーのドイツ・ブンデスリーグのSCフライブルクのスタジアムは,ヨーロッパ最大のソーラー設備を持っている.施設全体で使用する電力をほとんど自前でまかなっている.そして,芝の暖房もエコ・エネルギーが使われている.
ここでもまた,できる所で,できることは何でもやる,使えるエネルギーは小さくても見逃さないという徹底ぶりが見えるのである.
■市環境局レクチャー
ここでは,フライブルク市の交通政策,エネルギー政策,再生可能エネルギー,新エネルギー,廃棄物対策,自然保護など環境政策全般について,環境局長のヴァナー氏からレクチャーを受けた.
交通政策においては,市民への有利な乗車パスの発行などで,公共交通としての市電の優先し,自転車が走りやすい道路整備,自家用車のパーク・アンド・ライド推進によって,市街地の自家用車乗り入れは減少したと説明があった.石川県としては,市内へのLRT(路面電車)の導入や,自転車通行帯の整備など,金沢市が参考にできる点が多くあると思う.市民の理解と納得,法的なハードルもあると思うが,まず,その方向性を定め実行する意志があるかどうかである.議会でも議論していきたい.
エネルギー政策においては,これまで環境関連の200のプログラムを作ってきたそうだ.そのキーワードは,持続可能性と原発非依存である.省エネと再生可能エネルギー促進,新エネルギーのテクノロジー開発でロー・エネルギー・スタンダードを確立することだと述べた.再生可能エネルギーの目標値も示されていた.そして,これらのとりくみが雇用も創出している,人口20万人のこの市で,ソーラー・ファクトリーで2,500から3,000人の労働者が職場を確保しているということだ.また,火力発電でもコジェネレーション発電で,出た熱を配管で家庭に配熱することによって90%の熱交換を実現するとりくみも紹介された.
廃棄物対策では,発生抑制,リユース・リサイクル,排出抑制のとりくみにより,廃棄物の抑制を徹底している.日本でも同様
の取り組みは,進みつつあるが,ドイツのスーパーやドライブインなどでのPETボトルのリユースや,簡易包装などを見れば,まだまだといわなければならない.
フライブルクという街は,やや語弊があるかもしれないが,楽しみながら,かつ,緻密にエネルギーの小規模分散と地産地消を進めるしかけをつくって,これを実践している.この先進的なエネルギー政策,街づくりはドイツ全土に影響を与え,国内外に拡大している.日本においても,大規模集中から,小規模分散,再生可能エネルギー拡大政策の実行に遅れることがあってはならない.やはり,ネックは原発依存にあると言わざるを得ない.
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スイス ベルン市
■市観光局広報担当者レクチャー
スイスでも近年大きく観光客の入れ込みを増加させているのが,このベルンである.この旧市街地はユネスコの世界遺産にも登録されており,中世ヨーロッパの都市の姿を今に伝える大変きれいな地で知られている.観光局のマーク・シュテファン氏によれば,スイスを中心とした長期滞在型の観光の中心地として売り込みを強化しているという.
世界遺産登録による観光客増の影響について聴いてみたが,ヨーロッパ各国の世界遺産の数は日本の比ではなく,これが大きなファクターになるとは考えていないとのこと,全くそのとおりである.日本の石川,金沢への外国人観光客誘客には,そんな認定ブランドとは違う魅力発信が必要ということである.
景観維持のための様々な規制と歴史的建造物の保護のとりくみは,市民の意見と議会での議論を経ながら,時間がかかっても,納得の上で進められている.ここでもまた,路面電車と自転車通行帯は常識となっていた.

ベルン市は,アインシュタインが相対性理論を出筆した地であるし,私の好きな画家パウル・クレーが半生を過ごした地でも
ある.アインシュタイン・ハウスの訪問はかなったが,2005年にオープンしたパウル・クレー・センターの見学はできなかった.この世界的科学者と芸術家の縁の地であることも,この都市に厚みをもたせている.
ルツェルン市
■地下核シェルター施設
永世中立国であるスイスには核シェルターが今もある.各家屋にも地下にシェルターを設けることが定められている.この施設は家が古くシェルターを持たない市民が非難するためのものである.冷戦時代の核の脅威対策として建設され,2万人の市民を約2週間収容するための就寝場所や厨房,便所,病室,手術室などを完備している.
非常時に,1.5kmの高速道路のトンネルの両端を1mのコンクリート壁で塞ぎ,ここを仕切ることによって避難施設とするが,このトンネルに通じる6階建ての施設が地下に建設されているのである.
冷戦の集結とともに2002年に閉鎖が決定され,一部が災害時の避難者2,000人を収容する施設として機能を残しているが,日本の福島原発の事故と放射性物質放出によって,この施設も必要との声が高まっているようである.しかし,一方では,こ
んな所で過ごさなければならないのなら死んだほうがましだと言っている市民の声もあるのだという.やはり,核廃絶の道しかないのである.
■ルツェルン市議会
ヨーロッパの基礎自治体の議会(市議会)は,実費程度の報酬によって議員がボランティア的に働いているのが普通である.もちろん,議会は仕事に大きく影響を与えず開催できるように,時間帯も設定されているし,仕事そのものも夕刻には終わるのが当たり前である.その議会を膨張することができた.
議員の年齢が若いことや,1期4年を何期も務める議員が少ないことは,日本との大きな違いである.目的を持って立候補し,一定の成果が出れば退任するという形が普通になっている.
この日の議会では,経済的に厳しい移民の子どもの教育費を市が援助することの是非について議論がなされていた.この国でも経済格差と教育が問題となっているようだった.
石川県での議会改革が進められているが,県民に身近な議会をめざし,更なる情報公開や広報・広聴のとりくみも進めている.今後,歴史あるヨーロッパの地方自治,民主主義の現場についても更に勉強の必要性を感じた.
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イタリア フィレンツェ
■アグリ・ツーリズモ(農家民宿)コルテ・ディ・バーレ
近年日本でも人気上昇中の農家民宿の先進国イタリアのフィレンツェ近郊にこの宿がある.トスカーナ・ワインの大産地である
この地「グレーヴ・イン・シャンティ」で,シャンティ・ワイン用のブドウを栽培し,自家製ワインを製造するほか,オリーブやサフランの畑も持っている農家である.農家の古い建物を宿泊施設と農家レストランに改造し運営し,ワインやオリーブオイル,サフランなどの販売もしている.
起伏に富む広大な畑や遠くの山々が作りだす景観は,癒しを与えてくれる.このような場所でのんびりと過ごしたいという客が訪れ,何日も滞在をするのである.またまた,日本的感覚で,農作業体験のメニューはあるのかと尋ねたのだが,子どもたちの教育活動や見学の一部としての農業体験はあるが,宿泊客の多くは何もしないでのんびりと過ごし,おいしい物を食べることや飲むことを楽しみ,プールに入ることも人気があると言われ,さすがイタリアと妙に納得したのである.法的にも,農作業をすることは従業員契約しないとできないという規制もあるという.
日本のアグリ・ツーリズムで成功している能登「春蘭の里」に訪れる人たちは,農作業やキノコ採りなどを楽しんでいるが,ただのんびりというのもこれから求められてくるのかもしれない.
農家民宿の事業は,ホテルなどの通常の宿泊施設に係る法的規制が緩和されており,税の優遇などの支援も受けることができるが,あくまでも農業が本業であり,民宿の収入が上回ってはならないことや,宿泊施設の新築は認められないなどの別の制約がある.しかし,経済的には農業経営だけでは厳しい面があり,民宿を行うことで農家全体の経営はうまくいったと話してくれた.
イタリアでの,この施策の目的の一つは,農村景観の保存にある.農家の経営を助け,歴史的な農家の建物などが朽ち果てることを止めようという狙いである.農業の多面的機能が言われて久しいが,農家が農業をやりながら生活ができることが大前提となるのであるから,日本においても経営効率化を求めるばかりでなく,環境や食への貢献としての所得補償を更に充実させるべきである.それにしてもTPPは問題が多すぎる.